空嘘とAurora

基本的に趣味と現実逃避。時々小説。

タグ:モノクロ

 薄暗い世界にも朝はやってくる。 正しい時間の流れは定かではないが、腕時計の時間を頼ればもう事務所を出てから二日半は経過している。 結局浪費したのは時間だけで、身内から聞き出した情報も、探し人の立ち寄りそうな場所も、四方巡ってみてはいたが成果は上がらなか ...

 埠頭の倉庫街というものは、どこまでも探偵らしい場所だとつくづく思う。 それを誰から教わったということでもないけれど、閑散とした灰色の海、カモメの声、貿易船の汽笛。どれもが霧に隠れて曖昧で、まるで自分自身の存在さえも背景の一部になってしまったかのような、 ...

 時計の針を少し過去へと戻そう。 あれは数日前か数週間前か、ともすれば数年前の出来事。埃塗れの、教室一部屋くらいのワンフロア。室内はごちゃごちゃと机や棚が押し込まれていて、実際はもっと狭く見えた。 その部屋のドアを開けて、ひとりの少女が入ってきた。真っ白 ...

 着古したとしか言いようのないスーツと、不釣合いなほど真っ白なシャツ。それが彼の私服であり仕事着であり正装だった。革靴も擦り切れてボロボロ、頭もかろうじて櫛を通してあるものの、整髪料や何やらで整えているようには見えない。 首元にネクタイは見えない。助手の ...

 ひどく冷たいてのひらだと思った。 人のぬくもりなんてもう何年も前から知らないけれど、それでも記憶の中にある人間の体温はもっともっと高くて、じりじりと焼けるように高くて。 己の存在自体を焼き切ってしまうんじゃないかというくらいに。 水晶の鋭さにも似た、一 ...

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