頬の冷たい午後、いつものようにヘッドフォンで両耳を塞いで
ひっきりなしで駆け込んでくる電車を2つ見送って、一番端の席に体を預けた

「間に合った」
結局雑音越しにもその得意げな声は聞こえて、
見上げればやっぱり肩を上下させながら満面の笑みが待っている

――待っててやったんだよ。

なんて、間違ってでも言ってやらないけど
当然みたいに隣に鞄を下ろして、いつも通り分厚い漫画雑誌が自分に回ってくると信じている

どこで買ったのか、オレンジの蓋のペットボトル
まだあったかいよ、と手の甲に押し付けてくる
そうするともう何でも良くなって

――お先にどうぞ。
――いいの?
――帰ってゆっくり読むよ。
――じゃあ、遠慮なく。 

いつの間にか窓の外は薄暗く、やることもなくただ音楽に耳を傾ける
今日はもう1月22日、これが有限なのはもう分かっている
けれど隣に座るきみは、そんなこともお構いなしに笑っている

目を閉じる。がたごとと身体を揺らしながら
時々目を覚ませば、そのたびに乗客が減っている
握っていたペットボトルは、もう温くなっている
けれどきみは
それだけで安心して、またまどろみが追いかけてくる

「ありがとう」
最後のドアが開いて、膝の上に戻された雑誌を抱えて、揃って寒空の下に出る
また明日なんて言いながら、白い息を吐いて、マフラーに首を埋めたまま

ふと見上げる、付け焼刃の星座の名前なんてたかが知れてる
――これが恋人同士だったら、手のひとつも握るのにな。
――馬鹿じゃねえの。
そう言ったのはどっちだったか、
やっぱりもうどうでもいいけれど

この世にひとつだけ、動かない星があるとしたら
それが先人たちのように、俺の道標になるのなら