布団に押し込まれて、少し外出したと思ったら白城さんが帰ってきた。
体温計と風邪薬と、ボアフリースの部屋着を買ってきた。パステルピンクとミントグリーンの上下、どこかのチェシャ猫みたいな太いストライプ。着心地も見た目も、もこもこ温かくてかわいい。まるで自分がぬいぐるみになったみたいだ。私が可愛いという意味では、勿論ない。
「何か欲しいものはあるか?」
ベッドの端に腰掛けながら、白城さんが手を伸ばしてくる。その指の間には冷却シートがあって、特にないです、と答えているうちに額がひやりと冷たくなった。
本当は氷嚢とかがいいんだろうけど、と肩を竦めるので、私は私でまた首を振った。本当は、少し大袈裟だと思う。熱は……少しあるみたいだけれど、これくらいの体温変化なら疲労で簡単に上下してしまう。
けれど、目蓋はふわりと温かくて。シーツの肌触り、パジャマの着心地、それから、穏やかな声。それらに抵抗するつもりで、じっと見詰めあげる。
「まだ眠くないです」
「そりゃ、昼寝なんてしたからな」
額から離れた左手が頭のてっぺんを撫でる。髪がさらさらと掻き分けられて、私よりずっと大きな手のひらの優しさが余計に目蓋を重くする。
だから余計に悔しくなって。
どうしてこの人は、私を簡単に惑わしてしまうのだろう。嫌だと言う暇もなく包み込んで、自分でも知らない私の本心を表側に導いてしまう。
寂しいとか、嬉しいとか、知りたいことも知りたくないことも、全部。
それは時に子供っぽい私の姿さえも暴き出して、本当は向き合いたくない、認めたくない、見せてしまいたくないと考えながらも、離れた瞬間からすぐに何か物足りないような気持ちになってしまう。
「なんだ、子守歌でも歌おうか」
ほら、指先が離れてしまう。
前はこうじゃなかった。一人だって、独りだって、何も変わらなかった。なのにどうして、今は寂しいと感じるのだろう。
その答えを、一緒に居ることでいつか知ることが出来る気がして。
「じゃあ、それでいいです」
思わず空中で腕が止まる。掛け布団の合間から睨む真似をすれば、ちょっと面食らったような顔をさせた。白城さんのこういう表情を見るのは、本当は少し、少しだけ、楽しい。
「もうちょっと、ここに居てください」
でも、だからといって我侭を貫くつもりはないのだけれど。
なのにいつも、白城さんがそれを許してくれない。まるで見透かしているかのように。
自分でも驚くことに、すぐそばにあったワイシャツの袖を引き留めていた。それに気がついて、また目を覗き込まれて、見透かされてしまいたくなくて目を背ける。
頬の辺りに視線。そこから益々熱を持っていく。でも、すぐに布団の温かさが打ち勝って、その熱さえも心地よく夢を運び込んでくる。
「ねぇ、白城さん?」
「どうした?」
低くて穏やかな声が応える。
いつの間にか目を開けているのにも意志が必要になって。
「私って……どうしてこんなに子供っぽいんでしょう……」
もしかしたら私の言葉は、ひとりでに喉の奥から零れてしまったかもしれないけれど、それすらももうどうでもよくて。
「お前は充分大人だよ。背伸びしすぎてるくらいにな」
そんなことないのに。そう思ったけれど、白城さんの声があまりにも心地良いから、何も言い返さないままその優しさに聞き入っていた。
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