事の発端は、ある日の夢に見た少女とおじさんの奇妙な日常。
 今は使われていないであろう、病院にも学校にも似た建物の最上階に辿り着けば、傾いたスチール棚や錆びた椅子の向こうに事務用のデスク。ふいにやってきた少女を快く迎える部屋の住人。けれど少女は知っている。ここは生者の居るべき場所ではないことを。
 ――今となってはもう殆ど覚えていないけれど、それはとてもとても優しくほろ苦い恋の物語だったように思います。

 この『恩人』の元を離れないと誓う少女。この『迷子』の安らぎの場所たろうと誓う男。
 けれど心の奥底を吐き出さないもの同士は、いつまで経っても一定の距離を保つことしかできず。
 目が覚めて私は気づきます。あの『男』を救うのは少女で、『少女』を救うのもまた彼しかいないのだと。

 だから今回の話は、実際に見た夢というプロットをベースに書き進めました。男に白城史朗という名を与え、少女に遠野悠花という名を与えて。少女が男を慕う理由も、此処に来た理由も、全て揃えて。

 それでも、書ききれなかったことは幾つもあります。
 第七テナントビルの存在意義とか、徐々に忘れていく不要な記憶とか、生前との理の違いとか、沙月にアキトという双子の兄弟がいたこととか、白城がビルの管理をするようになってからもう7年経過していることとか。
 それから、悠花と白城、お互いがお互いを、これからどう思うようになるのか、とか。

 その辺りは今後、ふと掌編にしたためることもあるでしょう。とりあえず今回は此処で筆を置きます。中々の量になったので近い将来、微修正したものをノベリストのほうにあげることもあるかもしれません。

 そのときまで、しばしの休憩期間。
 今回はお読みいただきありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。

 感想や次回作・番外編等への要望などありましたらコメントください。泣いて喜んで次作への活力になります。


 追記。小説は数日休んだら、ASの方も再開していきたいですね。