平穏な陽光の下を歩くのは久々な気がした。
 人通りの多い交差点、青に変わる信号、道路を横切る横断歩道。
 けれどここもまた私達の馴染む日常の世界ではなくて、歳月に換算すれば6月、時間経過に表すならば、私達の居た場所よりも未来の括りになる。

 2011年6月末日。
 2010年の11月からはおよそ半年後の世界に私達は存在している。

「この調子だと、少し早く到着しそうね」

 気付いていないはずはないのに、主人は平素通り飄々とした様子だ。
 正常な私達の時間軸ならば、まだ存在しない空間。いや、まだ過去に居る私達には、これが正しい未来なのかも判別出来ない。もしかしたら此処は、誰かの一挙手一投足に寄って乖離してしまう世界なのかもしれないのだ。
 私は思い切って、主人に問うてみることにした。何故このような不安定な場所を合流地点に設定したのか、そのような危険を顧みずに『彼』と逢う必要はあるのか。

「このような場所、だからよ」
 主人は――篠宮安里という名の少女は、少しだけ目を細めて頷いた。

「気付いたでしょ? 此処に来る時のドアが違ったの」
 私は静かに顎を引いた。
「ええ。貴女は鍵を使いませんでした」
「つまりね、此処は私の管轄外の――っと、ちょっと語弊があるかな。私達の世界の外側に当たる場所だから」
「それは……」
 取り出したのは厚手の紙の切れ端。いや、使用済みの切符だった。
「招待状よ」
 誰からの、とは、聞く必要は感じられなかった。空想物書きの世界の外側。これから落ち合う予定の人物。思い当たるのはたった一人しかいない。

「外側だからこそ規制のない利点がある。それに、此処にいる限りリスクは殆どないわ。さしずめ神のご加護。ううん、魔王の掌上というところかしらね?」
 悪戯っぽくも無邪気な笑み。
 途方もないことをさらりと言ってのけるその微笑に、彼女が混沌の主と対当する理由をまた垣間見た気がした。



 指定場所は何の変哲もないファミリーレストランだった。前の通りには季節のデザートを押す幟が揺れていて、中に入れば既に冷房による室温調整を感じられた。
 レジの向こうから店員がやってくる。主人は彼女を軽く諌め、その脇をすり抜けていく。店内を見渡せば、彼の姿を容易に目視することが出来た。
 これは客観的意見だが、彼の容姿はこの場所には酷く不似合いだった。
 適度なアルコールが出る店でも老舗のレストランでもない、日本という国に有り触れたチェーン店。何十席とある個別席のひとつ。窓際の最奥に居ても尚、彼の存在は周囲から強く浮き出ていた。
 それは何も、彼の非日本人的な風貌や鮮やかな髪色の所為ではない。

「お久しぶりです」

 席の前に立つよりも先に、彼の目がこちらを捉える。
 穏やかな表情と会釈。私もそれに倣って応じ、主人はにこやかに手を上げる。

「会いたかったわ、ミルヒアイス」